
パート練習・ハウツー · パートリーダー/中高生向け | 文・吹部のミカタ編集部
この記事には広告・アフィリエイトリンクを含む場合があります。
「一人ずつチューナーで真ん中に合わせたのに、重ねると濁る」——それは腕のせいでも耳のせいでもありません。合わせる順番と、和音の中で音を動かす方向が分かれば、濁りの原因は自分たちで見つけられます。
この記事は、パート内で「音程」と「縦(発音のタイミング)」をそろえる練習手順だけを、順を追って解説します。各自がチューナーで中央に合わせても濁るのはなぜか。どの音を、どちらへ、どれだけ動かせばうなりが消えるのか。そして「合っているか」を自分たちで判定する方法までを一本にまとめました。
想定読者は、パート練習を任された中学生・高校生のパートリーダーと、「合わせているのにハモらない」と悩む部員です。特別な機材は要りません。いつものチューナーと、パートの人数分の耳があれば始められます。
この記事でわかること
- 各自チューナーで真ん中に合わせても重ねると濁る理由(平均律と純正律のちがい)
- 根音→第5音→第3音で積み上げる、パート・ハーモニーの合わせ手順
- 和音の中で音をどちらへ・どれだけ動かすか(第3音は低め・第5音は少し高め、をセント値で)
- うなりの回数を数えて、あと何セントずれているかを自分たちで判定するやり方
- 音程が合っても濁る時に効く「縦(発音の頭)をそろえる」3つの練習
まず、これだけ
- まずやること:全員チューナーで各自中央に合わせ、そのまま和音を重ねて「濁る」のを一度体感する。ここが出発点です。
- 合わせる順番:根音(ルート)→第5音→第3音。低い土台から積み、上に乗せていく。全員同時に合わせようとしない。
- 動かす方向:チューナーの中央から、第3音は低め(長三度で約−14セント)、第5音は少し高め(約+2セント)へ。うなりが消える所が正解。
- 合ったかの判定:数値ではなくうなり(うねり)が止まったかで判断。音程が合っても濁るなら、原因は音程でなく発音の頭(縦)です。
なぜ「各自ぴったり」なのに、重ねると濁るのか
まず、いちばんの誤解をほどきます。全員がチューナーの真ん中に合わせても、和音はきれいにハモりません。これは腕前の問題ではなく、仕組みの問題です。
チューナーが示す「真ん中」は、平均律(へいきんりつ=1オクターブを機械的に12等分した音律)の位置です。ピアノやハーモニーディレクター(合唱・合奏で使う電子鍵盤)と同じ並びで、どの調でも弾けるように少しずつ妥協した音の高さになっています。いっぽう、管楽器が重なって「うなりのない澄んだ和音」になるのは純正律(じゅんせいりつ=うなりが消える、自然な周波数比の音律)のときです。この二つは、同じ「ド・ミ・ソ」でもミやソの高さがわずかに違います。
つまり、全員が平均律の中央に合わせるほど、和音としてはわずかにズレて濁るという逆転が起きます。ここを知らないまま「もっと合わせろ」と言い合っても、迷路から出られません。そこでこの記事では、どの音を・どちらへ・どれだけ動かすかを、順を追って示します。
この記事で使う言葉
- セント:音程の細かい単位。半音=100セント。チューナーの針は中央から左右に±50セントを表示します(読み方は チューナーの使い方の記事へ)。
- うなり(うねり/ビート):二つの音の高さがわずかに違うとき、音量が「ワンワン…」と周期的に揺れて聞こえる現象。合うほど遅くなり、合えば止まります。
- 根音・第3音・第5音:和音を積む三つの音。根音(ルート=土台)、その上の第3音(和音の色を決める)、いちばん上寄りの第5音(骨格)。
- ユニゾン:同じ音を複数人で吹くこと。オクターブちがいで重ねる場合も含みます。
合わせる手順(ロングトーンで積み上げる)
やることは大きく2段階です。①音程(縦の高さ)をそろえる→②縦(発音のタイミング)をそろえる。まず①から。全員で同時に合わせようとせず、下から一人ずつ積むのがコツです。

STEP 1 役割を確認する(誰が何の音か)
スコア(総譜)やパート譜で、その和音の中で自分が根音・第3音・第5音のどれを吹いているかを確認します。分からなければ、パートリーダーが「今の和音は○がルートね」と口で言うだけで十分。自分が土台か、色づけか、骨格かを知る——これが動かす方向の前提になります。
STEP 2 根音(ルート)だけで基準を作る
まず根音の人だけがロングトーンを伸ばします。チューナーの中央でまっすぐ。ここが動くと全部動くので、根音はいちばん安定させ、以後あまり動かさないのが原則です。息のスピードや楽器の温まりで高さが変わるので、吹き始めてしばらく待ってから基準にします(このあたりは メーターの読み方の記事で詳しく)。
STEP 3 第5音を重ねる(少し高めで、うなりを消す)
根音が伸びている上に、第5音(完全五度)を重ねます。チューナー中央より、ほんの少し高め(約+2セント)に置くと、二つの音のうなりが遅くなり、やがて止まります。止まった所が正解。針ではなく、耳で「ワンワン」が消えるのを聞きにいってください。
STEP 4 第3音を重ねる(低めにして和音を澄ませる)
最後に第3音を乗せます。ここが響きの色を決める、いちばん敏感な音です。長三度(明るい和音)の第3音は、チューナー中央よりはっきり低め(約−14セント)に置くと澄みます。逆に短三度(暗い和音)の第3音は少し高めです。中央に律儀に合わせるほど濁るので、「第3音は攻めて動かす音」と覚えておくと迷いません。
どの音を、どちらへ動かす?(早見表)
和音の中での役割ごとに、チューナー中央からどちらへ動かすかの目安をまとめました。数値はあくまで目安で、最終判断は「うなりが消えたか」です。音量バランス(根音は太く・第3音はとけ込ませる・第5音は控えめ)も一緒に意識すると、さらに澄みます。
| 和音での役割 | 中央から動かす方向(目安) | 音量の目安 | ひとこと |
|---|---|---|---|
| 根音(ルート) | 中央のまま(土台。基本動かさない) | やや太く(土台) | ここが揺れると全部揺れる |
| 第5音 | 少し高め(約+2セント) | 控えめ | 骨格。上げすぎ注意 |
| 第3音(長三度・明るい和音) | はっきり低め(約−14セント) | とけ込ませる | 色を決める音。攻めて動かす |
| 第3音(短三度・暗い和音) | 少し高め(約+16セント) | とけ込ませる | 長三度と逆向きに注意 |
| ユニゾン・オクターブ | 中央どうしで合う(うなりで微調整) | そろえる | 音程が合っても音色差で濁る |
※セント値は、うなりが消える周波数比(長三度5:4・完全五度3:2・短三度6:5)と、チューナー中央=平均律との差から出した目安です。曲・調・パート編成で最適点は動きます。数字を追うより「うなりが消えたか」を最終判断にしてください。
合っているか、自分たちで判定する(うなりの回数を数える)
「うなりを消せ」と言われても、消えたのか、もともと聞こえていないのか、初心者には分かりにくいものです。そこで手がかりになるのが、うなりの回数を“数える”やり方です。合ったかどうかを、感覚ではなく回数で確かめられます。
二つの音を重ねると、1秒あたりのうなりの回数は、二つの音の周波数の差(Hz)とほぼ同じになります。たとえば基準の音がA=442Hzのとき、相手が445Hzなら、1秒に約3回「ワン・ワン・ワン」とうねります。この“1秒に何回”を数えるだけで、あとどれくらいズレているかが耳で見えるようになります。
- 1秒に3回以上うねる=まだ大きくズレている。方向を思い切って変える。
- 1秒に1回くらい=あと少し。ゆっくり寄せて、うねりを長く(遅く)していく。
- うねりが止まって、音がひとつに聞こえる=合った。ここで息を止めず、その響きを覚える。
ポイントは、うなりが「速くなる方向」に動いたら逆、「遅くなる方向」なら正解に近づいているということ。二人一組でやると、「合う瞬間」がつかみやすくなります。数値を追うより、このうなりの遅い・速いで方向を決めるほうが、実は現場では速いのです。

音程が合っても濁るなら、原因は「縦(発音の頭)」
音程をそろえたのに、まだスッと澄まない——そのときは、原因は音程ではなく縦です。縦とは、みんなの音の出だし(発音)と切り(音の終わり)のタイミングのこと。頭が数十ミリ秒ずれるだけで、和音は「にごって」聞こえます。ここをそろえる練習を3つ。
- ブレスをそろえる:誰かの合図で全員が同じタイミングで息を吸う。出だしは「吸った勢い」で決まります。吸うのがバラバラだと頭もバラバラ。
- タンギングの“頭”をそろえる:「トゥ」の子音の位置を全員で合わせる。ゆっくりのテンポで、まず頭だけを合わせる練習を。速いパッセージほど頭がずれます。
- 切りをそろえる:出だしだけでなく、音の終わりも合図で。伸ばした最後がバラけると、そこだけ濁って聞こえます。
縦がテンポそのもの(走る・遅れる)で崩れている場合は、音程練習の前に土台を直したほうが早いです。テンポの症状別の直し方は テンポキープとリズムの合わせ方 にまとめています。
まだ、やらなくていいこと
やる気があるほど盛り込みすぎて、かえって迷子になります。次のことは、基本が回るようになってからで十分です。
- 全部の和音に純正律のセント値を割り振る:まずは主要な和音の第3音だけ。全部やろうとすると練習が止まります。
- 高価な機材をそろえる:ハーモニーディレクターや個人用の高性能チューナーは、無くても始められます。まずは今ある道具で。道具の全体像は チューナー・メトロノーム・譜面台のえらび方トップ に整理しています(アフィリンク=)。
- 録音での細かい分析:最初は「その場でうなりを聞く」で十分。録って振り返るのは、耳が慣れてからのほうが効きます。
パート合わせのチェックリスト
- ☑ スコアで自分が根音・第3音・第5音のどれかを確認した
- ☑ 根音→第5音→第3音の順に一人ずつ積んだ
- ☑ 第3音(長三度)は低めに、うなりが消えるまで寄せた
- ☑ 合わせる時はチューナーを見ず、うなりで判断した
- ☐ 音程が合っても濁るならブレス・タンギング・切りを合わせた
- ☐ 合った響きを体で覚え、次も再現できるようにした
この方法が向かない場面
正直にお伝えします。次のような場合は、この記事より先にやるべきことがあります。
- 個人がまだロングトーンを安定して伸ばせない段階:まず一人で音をまっすぐ保てるように。揺れる音は合わせようがありません。
- そもそも縦(テンポ)が大きくバラけている:音程より先にテンポの土台から。テンポの合わせ方を先に。
- 顧問の指導方針が決まっている:純正律の動かし方は流派があります。学校・先生の方針が最優先。この記事は一般的な目安です。
学校や先生に確認すべき点
音律の考え方や合わせ方には、指導者ごとの流儀があります。パートで独自に進める前に、次を確認しておくと、練習が空回りしません。

- チューニングの基準は何Hzですか?——A=440か442かで全員の出発点が変わります。
- 純正律で合わせる方針ですか、平均律の中央基準ですか?——「第3音を下げる」は方針しだいです。
- この和音で私は何の役割ですか?——根音・第3音・第5音がはっきりすれば、動かす方向が決まります。
合わせる主役はチューナーではなく、うなりを聞く耳。
よくある質問
各自チューナーで真ん中に合わせたのに、重ねると濁ります。なぜ?
チューナーの中央は平均律の位置で、和音がうなりなく澄む純正律とは、第3音や第5音の高さがわずかに違うためです。全員が中央を守るほど、和音としては濁ります。合わせる段では中央から離れ、うなりが消える方向へ音を寄せてください。
第3音を「低め」にすると、自分だけ音痴に聞こえて不安です。
一人で聞くと低く感じますが、和音の中では逆にとけ込んで澄みます。長三度の第3音を中央より約−14セント下げるのは、純正律では自然なこと。判断は「自分の針」ではなく「和音のうなりが消えたか」で行ってください。短三度のときは逆に少し高めになります。
うなりが聞こえているのか、消えたのか自分では分かりません。
「1秒に何回ワンワン鳴るか」を数えてみてください。回数が減って、やがて音がひとつに溶けて聞こえたら合っています。うなりが速くなったら動かす方向が逆、遅くなったら正解に近づいています。まずは二人一組で、ゆっくり寄せる練習から。
音程は合ったのに、まだスッキリしません。
原因は音程ではなく「縦」(発音の頭のタイミング)か、音色・音量のばらつきです。ブレスを合図でそろえ、タンギングの頭と音の切りを合わせてみてください。テンポそのものが崩れている場合は、先にテンポの合わせ方で土台を整えると早いです。
パート練習の進め方そのものが分かりません。何から回せば?
この記事は「音を合わせる手順」に絞っています。時間配分やメニューの組み方、リーダーとしての回し方はパート練習の進め方にまとめました。まずはロングトーンで根音→第5音→第3音の積み上げを、練習の最初に5分入れるところから始めてみてください。

あわせて読みたい
文・吹部のミカタ編集部 | 吹奏楽・音大・ジャズ研の経験をもとに「合わせる」「そろえる」を判断できる練習と道具選びを発信。セント値は一般的な目安です。指導方針は学校・先生の案内を優先してください。